イギリスにある小さな村、ハーウェル(Harwell)は世界中から科学者が集まる世界最高峰の研究施設がある場所です。シリコンバレー級にスゴイと言われている内容を紹介いたします。
ハーウェル(Harwell)とは?
ハーウェル(Harwell)はロンドンから電車で約1時間、オックスフォードからは車で30分ほどの場所にある科学技術の拠点です。

もともとは1940年代に原子力研究のために設立された場所ですが、現在ではエネルギー、宇宙、ライフサイエンス、量子技術、AI、ナノテクノロジーといった多岐にわたる分野で、世界中の科学者たちが集まり最先端の研究が行われています。
どんな施設があるのか?
このキャンパスには、
「ダイヤモンド・ライト・ソース(Diamond Light Source)」:英国放射光施設
「英国宇宙庁(UK Space Agency)」:宇宙関連の研究
「Oxford Quantum Circuits」:量子コンピューター研究で注目されている企業
など、最先端の研究施設が立ち並んでいます。
科学者を引き付ける魅力とは?
ハーウェルの魅力の一つは、
分野の壁を超えたコラボレーションが自然に生まれる環境
にあります。
たとえば、ある日カフェで出会った神経科学の研究者と話しているうちに、X線を使った脳組織の構造解析に応用できるかもしれない、という新しいアイディアが生まれたこともあります。
国際色豊かなコミュニティ
ここには世界中から科学者が集まっています。
ドイツ、アメリカ、中国、インド、そして日本から来た研究者も多く、多様な文化の中で研究を行うことは、科学だけでなく人生の視野も大きく広げてくれます。
研究の合間には、皆でパブに行って一杯やるのもイギリス流と言われています。
未来を感じる場所
ハーウェルにいる科学者たちが感じるのは、
「ここで起きていることが、確実に未来を形作っている」
という実感だそうです。
例えば、
がん診断を変える新しいイメージング技術
脱炭素社会を目指す次世代バッテリー
宇宙ゴミの軌道管理システム
といった最先端の研究が、現在この場所で開発が進められているからです。
ハーウェルの核心:科学を加速する最先端の研究設備を紹介
さらに、ハーウェルにある研究設備をいくつかご紹介いたします。
ダイヤモンド・ライト・ソース(Diamond Light Source)
ハーウェルの「心臓部」とも言えるのが、英国唯一の
第三世代シンクロトロン放射光施設
と言われている「ダイヤモンド・ライト・ソース」です。

巨大なドーナツ型の建物の中では、電子が光速近くまで加速され、X線などの放射光を放出します。
このX線を使って、私たちはナノレベルの構造解析を行うことができます。
この施設では主に
といった分野で使用されています。
セントラル・レーザー・ファシリティ(Central Laser Facility, CLF)
もう一つのハイライトは、超強力レーザー研究施設であるCLFです。

中でも有名なのが
「Astra Gemini(アストラ・ジェミニ)」
「Vulcan(ヴァルカン)」
というレーザー装置で、これらは極端環境下での物質の挙動を研究するために使われています。
いくつかの用途の例としては、
などが挙げられます。
理論上は、太陽の中心に近い条件を人工的に作り出すことも可能と言われていて、まるでSFのような実験が日々行われているので興奮しますよね?
ロザリンド・フランクリン研究所(Rosalind Franklin Institute)
医療技術とライフサイエンスの境界を切り開くために設立されたこの研究所では、次世代のイメージング技術が開発されています。

特に注目されているのが、世界でも数少ない
クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)
の高度化プロジェクトです。
いくつかの取り組み例をご紹介すると、
といったものがあります。
創薬分野での革新はもちろん、がん診断や神経疾患の研究でもこの設備が活用されています。
RAL Space(英国宇宙庁の宇宙研究部門)
スペースロマン溢れる方にはたまらない場所ですね(アメリカのNASAや日本のJAXA)。

ここでは、
人工衛星の設計・開発・テスト
が行われています。
ハーウェル内には実際に宇宙機器を打ち上げ前に試験できる「熱真空チャンバー」などの設備があり、温度・圧力・振動環境の模擬実験が可能です。
特徴的な設備としては、
があります。
宇宙ゴミ(スペースデブリ)の追跡や火星探査ミッションへの支援もこの施設で行われています。
ISIS中性子・ミュオン源(ISIS Neutron and Muon Source)
もう一つの巨大施設が、
中性子とミュオンを利用した物性研究
を可能にするISIS施設です。

ここでは、放射光とは異なる視点で物質の内部を探ることができ、特に軽元素(水素など)の観察に優れています。
いくつかの利用例を紹介しますと、
といったものがあります。
中性子は深く透過するので、
「分厚い試料」
「作動中のデバイス」
の観察が得意と言われています。
まとめ
ハーウェルは世界最高峰の研究者が集まる場所ですが、単なる研究施設の集まりではありません。
未来を切り開く「場」として機能している、まさに科学のハブです。
科学者の多くがここで働けることを誇りに思っているそうですし、もし科学に情熱を持つ人なら、ぜひ一度この地を訪れてみてはいかがでしょうか?
未来は、ここで始まっています。